炎 5 |
「あ、満月ですね。」 「本当だ。」 居酒屋を出た頃には月がとっくに昇りきっており、月光が柔らかく二人を包んでいた。威勢の良い居酒屋店主の声は店の戸を閉めると一気に聞えなくなり、代わりに酔っ払いの陽気な声が響く。 「満月の夜って、事故とか多いんだそうですよ。」 「へぇ・・・。」 口布を元の位置に戻しながらのカカシの一言に、イルカの気分は下降した。そういえば九狐の襲来の夜も満月だったと思い返し、そして電話越しの男も思い出す。自分の中の嫌なイメージのモノに、ちゃんとあの男が組み込まれていて、そのことが何だかとても不快だった。 「あ〜、気分いいなぁ。イルカ先生、もう一軒行きません?」 「あ、じゃあ・・・狭いと所で申し訳ないですが、家に来ます?」 「えっ!」 一人で家に帰りたくない。そんな子供染みた気持ちで、イルカはカカシを誘った。もちろんイルカにはそれ以上の想いもなく、酔った頭ではカカシの気持ちを察する事も出来なかった。カカシは「いや、でも。」なんてしどろもどろになっており、イルカはどうしたんだろうと首を傾げる。 「貰い物ですが、いい酒があるんですよ。」 「・・・じゃあ、ちょっとだけ・・・。」 自分に対して邪な想いを寄せる相手をすんなり自宅に誘うイルカ。警戒心ゼロなのはいいことなのかどうなのか。カカシは小さく溜息を吐き、それでも誘いを断ることも出来ずイルカについて行った。 「あれ?」 イルカが自宅に着くと、ドアの前に小さな箱が置いてあった。箱はキレイにラッピングされてあり、プレゼント品のように見えた。 「イルカ先生、誕生日だったんですか?」 「えっ。そんなことまったくないです。・・・なんだろう・・・。」 とりあえず地面にある箱を拾い上げ、カカシと共に部屋へ入った。電気を点け、箱をちゃぶ台の上に置いておく。 「カカシ先生。風呂に入りますか?今日は泊まっていってくださいよ。」 「えぇ!?いや、それはご迷惑だし・・・。」 「そんなことありませんよ?今日はとことん飲みましょう!」 拳を掲げて、陽気に言い切るイルカ。どうやら思った以上に酔っているらしい。加えて一人で居たくないとも思っているのだろう。カカシは今度こそ困ったぞと思ったが、やはり惚れた弱みなのだろうか。頭を掻きながら「じゃあ、風呂入らせてもらいます。」と観念した。 「ごゆっくりどうぞ。その間につまみとか用意しておきますね。」 「・・・はい。」 困ったような嬉しいような複雑な表情のカカシに、イルカは不思議に思ったが着替えの浴衣を渡して風呂場へ案内する。シャワーの音が聞えてきたのを確認し、居間へと戻った。 「あ、そういや。」 ちゃぶ台の上にある箱。イルカは何だろうと手に取り、裏表を見回してみる。宛名も差出人も何も無い。間違いだったら困るなぁと思い、少し気まずいながらもラッピングを外した。 もし間違いだったらと思い、ラッピングは丁寧に外す。中は白い箱で、やはり差出人の手がかりになるようなものは何も無かった。そろりと蓋を外していく。 「・・・なっ!!」 中身を見てイルカは声を上げてしまった。驚きで思わず腰を引く。 「まさか・・・。」 あの男だ。 イルカは直感した。 箱の中身はイルカが見たこともないような物が入っていた。透明な液体が入っている小瓶。小さなベルト。ピンポン玉よりも小さめの球体が幾つも連なっている奇妙な物。それからイルカでも分かるような、卵型のローターやグロテスクな形のバイブ。それも何本もだ。しかし見た事もある機械もある。携帯電話が一つ入っていた。 自宅の場所がばれている。 イルカは噴出した不安感に冷や汗する。先ほどまでのいい気分が一瞬にして吹き飛んだ。もつれる手付きで箱の蓋を閉め、カカシの目に触れない場所へと隠そうとした。その時。 タイミングを計ったように箱が震え出した。ビクリと身体全体で反応し、イルカは素早く驚きの元を開ける。中にあった携帯電話が震えている。表示画面には非通知と出ていた。 ごくりと生唾を飲み込み、風呂場へのドアを見る。ザァザァと水音が響き、カカシの入浴中を知らせる。その事を確認し、イルカはゆっくりと通話ボタンを押した。 無視しようかとも思った。 しかしもし、カカシを招いたこの部屋に脅迫者が乗り込んできたらと思うと・・・イルカは逆らう事が出来なかった。 「・・・も、しもし・・・。」 『出るの遅せぇよ。』 「・・・。」 予想通り、携帯の向こうからは変音機を使った声が聞えてきた。イルカは恐る恐る風呂場のドアを見る。大丈夫。シャワーの音が聞えてくる。 「・・・何の・用だ・・・っ。」 『分かってんだろうが。ちゃんと届いてるかぁ?』 「今日は人が来ていて――・・・。」 『届いたかどうか聞いてんだよ!』 苛立ちを含んだ声が耳を貫く。こちらの意向などお構いなしか。イルカはくっと唇を噛み、屈辱に耐えた。現に携帯電話に出ているのだから、ちゃんと届いている事は明白だ。なのに男はイルカの返事を待った。 「届いてます・・・。あ、あんな物・・・ッ!」 『早く使ってみたいだろ?』 クックッと楽しそうな笑い声。そんなわけないだろうと叫びたかったが、そうもいかない。カカシが使うシャワーの音はまだ続いているけれど、いつ止まるか分からないのだから。イルカは出来るだけ穏便に冷静に相手に訴えた。 「今日は、ゆ・友人が泊まりに来ているんです・・・。だから貴方の要求には応えられません。どうか明日以降にしてください。」 上忍のカカシを友人と呼んでは失礼と思ったが、泊まりに来ている相手を悟らせてはいけないとイルカは気を張った。頼むから今夜は勘弁して欲しいと訴える。カカシにこんなみっともない自分を見せるわけにいかないのだから。 『・・・今、そのユウジン様やらは何してるんだよ。』 「今は風呂に入ってます。直ぐに上がってきますから、今夜は・・・。」 『丁度いいじゃねぇか。』 イルカの言葉を遮って、男はとんでもない事を言い出した。聞いたイルカはザァッと自分の血が下がる音を聞く。絶望に身体が震え出した。 『そのゴユウジンが風呂から上がるまで、オレに付き合ってもらうぜ?イルカせーんせっ!』 楽しそうな男の声。イルカは言い返すことも出来なくて、ふるふると力なく頭を振った。 『早くしねぇと、風呂から出てくんじゃねぇの?』 その言葉にさらに震えた。「出来ない。」とやっとの思いで口にすると、男はげらげらと下品に笑った。 『出来ないじゃなぇだろ?オレがしろといったら、ヤルんだよ。』 イルカはぺたりとその場に座り込んでしまった。
『はめたかぁ?』 間延びした声が神経を逆撫でする。イルカは震える手を男の言う事を聞くために動かしていた。 箱の中に入っていた小さなベルト。 男はそれをイルカ自身にはめろと命じた。 萎えている自身にそんなものを取り付けている自分が情けなくて泣いてしまいそうだったが、命令に背く事が出来なかった。 逆らうなと言われて、心臓が凍りついた。カカシにこの男の存在を知られるのが恐くて、逆らえない。 「ど・こでこんなもの・・・っ!」 『ペニスバンドもバイブも、お前のためにわざわざ買ってきてやったんだぜ?感謝しろよ〜。』 ぱちりとベルトを締め終え、自身を見てみる。熱が入っていない己自身に真っ赤なベルトが巻き付けれていて、異様だ。イルカは咄嗟に目を逸らし、風呂場へと続く廊下に背を向けた。幸いカカシはまだ入浴中だ。 「は・はめた・・・っ。」 『イルカ。口の利き方に気をつけろよ?主人に向かって何言ってんだよ。』 「――!!」 主人!? 男の言葉にイルカはカッとなった。誰が主人だと怒鳴って通話を切ってやりたいと怒りが湧いてくる。ぎりっと携帯を持つ手が軋んだ。 『イールカ。返事は?』 男の声はニヤついている。逆らえないと分かっている上からの言葉だ。 『オトモダチ。上がってくんじゃねぇのぉ?』 「・・・す・みません、でした・・・。」 悔しい。悔しい悔しい悔しい!! イルカは歯を食いしばり、悔しさで涙を流す。しかしその震える声を聞いて、男が小さく笑った。満足気に。 『次はローターにたっぷりローションを付けて・・・ケツに入れるんだ。』 「なっ!!」 言われて箱の中身を見てしまう。ローションの小瓶とピンクローターが直ぐに見えた。イルカは青褪めて許しを請う。 こんなもの、入れられるわけが無い!! 「で・できないです・・・!」 『やるんだ。』 「こんなこと・・・っ!」 『イルカ。』 怒りを含んだ静かな声を浴びせられ、びくりと身体が竦む。男の機械越しの声が自分を縛り付けるのを感じた。イルカは震える手でローションと卵型の機械を手に取る。 ごくりと生唾を飲み、ビンの蓋を開ける。とろりとしたゼリー状のローションを手の平に乗せローターに塗りつける。それだけの行動にイルカは息を切らし、涙を流した。風呂場から水音が聞える。ただカカシがあがって来ないことだけを願う。 「ぅ・ひ・・っ・・・。」 『泣き声、すげぇそそるなぁ。』 「やっ・ひどい・・・っ!」 『あぁ、いいぜ。イルカ先生・・・。まずは、指からだ・・・。』 男の声が恍惚としたものになっているのが分かる。男もイルカの声や行動に興奮しているのだ。もしかしたら自身を慰めているのかもしれない。そう思うと、イルカは嫌悪を感じた。 「うぅ・・・っ!!」 言われるままに、ローションで濡れた指を自分の最奥へと導く。つぷりと第一間接を体内へと含ませて、イルカは呻いた。恐怖がせり上がってくる。 狐に犯された夜が湧きあがる。 そして自分の体内が蠢いて指を包む感覚は、恐怖と共に驚きをイルカに与えた。熱く絡みつく最奥。 イルカは倒錯した世界へ自分が落ちていくのを感じる。 『そのまま押し開いて・・・ローターも突っ込め・・・ゆっくりでいい。』 「あっ・うぅ・・・こ・わいぃ・・・!」 『大丈夫だ・・・ゆっくり・・・。』 男の声が掠れていく。感じていることを伝えてくる。イルカは虚ろな瞳のまま、言われたとおりに指を動かした。 男が感じている事が、嬉しい。 昏い喜びが自分を支配する。 無意識の喜びがイルカを動かす。痛みを感じる暇なく、イルカはローターをゆっくりと含んでいった。 「ひぃ・・・っ!」 『・・・痛ぇか?』 痛い。 ローターではない。 己自身が膨れ上がっているからだ。 イルカは信じられないものを見た。強要された行為を行っているのに、自分自身が熱を持ったのだ。力が無い状態でベルトをした自身が膨れたのだから、当然そこは締め上げられている。根元がぎゅっと絞られ、イルカは痛みで悲鳴を上げた。 「い・たい・・・っ!外させっ・・・!」 『外したいか?』 「おねが・っ・します・・・!」 『じゃあ、ローターのスイッチ入れな。そうだな、メモリは最初から最大だ。』 「は・はい・・・!」 痛みと屈辱で目の前すら見えない。イルカの混乱した頭では、男の言葉を素直に聞くことしか思いつかなかった。ただ塞き止められた欲情を解放したい思いで一杯だ。 尻から伸びているコードの先にあるスイッチのメモリを「強」に設定する。目の前が真っ赤になっていく。カカシの姿が思考からどんどん消えていった。
き・期待はずれだったでしょうか。(汗) |
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