僕は先生にフィーバー!
〜KI編〜




うみのイルカ25歳。

人生の岐路に立たされる。

何の迷いも無く教職の道へと進んで、教師へとなった。男子生徒にも女子生徒にも分け隔てなく接する教師になりたいと夢見ていたが、私立の男子校へと行かされた。しかし今じゃそれもありかなと思えるくらいには成長したと思う。可愛い女子生徒から「せんせ〜!」なんて言われることが皆無というのは寂しいが、まぁ、ともあれ。結構普通の人生をんできたのだ。

普通の人生万歳。

平凡万歳!!

「スイカ・・・なんで?」

先生だって普通の人間だ。極限状態にもなれば、こんな間抜けな事しか言えないさ。





ある意味人生経験?




事の発端は、放課後行われた職員会議だった。ここ最近、男子高生の売春が流行りだしたというのである。イルカはそのことを会議の場で言い出した、教頭の言葉を疑った。ここが共学や女子高なら話は早い。でも、由緒正しい男子校での会議に、「売春」が持ち出されるとは思わなかった。イルカは手元に配られた資料を驚きと共に見直す。教頭も言い出しにくいのだろう。何度も咳払いをしながら話を続けていく。

「えー。何でもいわゆるホモセクシャルを相手に、男子高校生が売春を行っているので、注意を呼びかけて欲しいとの要請が警察の方からきてまして・・・。」

「・・・まさかうちの生徒にも、その傾向があるのか――!?」

ズバリ核心をついたのは、体育教師のガイだった。今時珍しい熱血タイプで、生徒には鬱陶しがられているようだが、イルカは意外にも気に入っていた。生徒談義が楽しくて、よく呑みに行ったりしている。イルカが、相変わらずハッキリ言うなと二つ隣に座っているガイをチラリと見ていると、困った顔をしていた教頭が咳払いをした。

「イルカ先生。」

「は?はい!?」

突然呼ばれたため、イルカは狼狽した声を出してしまった。その声に苦笑した先輩教師のアスマに情けない顔を見せた後、イルカは教頭に向き直る。教頭はまだ困った顔をしていた。

「・・・何でも、イルカ先生のクラスの生徒が、度々深夜に目撃されているそうで・・・。」

「う・うちのクラスの奴がですか!?」

イルカは思わず立ち上がってしまった。自分のクラスの生徒に「売春」をしている生徒がいるなんて、信じられなかった。オマケに男相手だという。

「噂の域を出ないことなんですが、一応調べてみてはくれませんか。」

「もちろんです!名前は分かっているのですか?」

その言葉に、教頭と生活指導の教師が顔を見合わせる。イルカは、何故そこまで言い辛いのか分からなかった。

「・・・ナツノスイカです。」

「・・・スイカが?」

言い辛い訳が分かった。ナツノスイカは、我が校トップクラスの頭脳の持ち主だからだ。素行だって決して悪くない。寧ろ良すぎだ。家柄もしっかりしているし、生徒からも教師からも人気がある生徒だった。イルカだって耳を疑ったくらいだ。自分のクラスの自慢の生徒であるスイカに、そんな噂があるなんて思ってもいなかった。

こんなに疲れる職員会議は初めてだった。

そう思いながら、イルカは帰宅準備をしていた。今日は土曜日だ。もしかしたらスイカは今夜出かけるかもしれない。そう思ったイルカは、今夜はスイカを見張るつもりだった。スイカ本人にばれない様に、自宅を見張らせてもらおう。内心号泣しているイルカは、横で未だに笑っているアスマをじろりと睨みつけた。

「アスマ先生!いい加減笑うの止めてください!」

「悪ぃ。イルカ、お前は本当に苦労性だな。」

悪びれもしていないアスマに、イルカは深い溜息を付いた。

あー・・・今夜は帰れるのかな・・・。

「でも、ナツノねぇ・・・。確かになよっとした印象はあるけど・・・。真面目タイプで売春なんてしそうにねぇんだけどな。」

「ちょっと潔癖っぽいですからね。でも、いわゆるお坊ちゃまで、美少年の部類に入る容姿だから、そ、そういうオヤジ受けは良さそうです・・・。」

はぁ〜ともう一度深い溜息をついて、イルカは車のキーを鞄から取り出した。今からスイカの家に向かうつもりだ。

「月曜日の報告を楽しみにしてるぜ。」

「・・・楽しみにしててください・・・。」

アスマはこれから部活の指導だ。ジャージのファスナーを閉めながら、にやーっと悪ガキの様に笑っている。イルカは、月曜に「あんなのデマでしたよ〜!」と笑って話せますようにと願わずにはいられなかった。








ナツノ宅は立派な高級住宅街にある。しがない教師の給料では、一生こんな家には住めないだろうなとイルカは車の中からナツノ宅を窺っていた。怪しい車だと思われるかもしれないが、探偵まがいの事をしたことがないイルカにはこれが限界だった。

スイカが自宅に戻った姿を確認してから、一時間経過した。特に目立ったことはない。イルカはハンドルに凭れながら、本当にスイカが売春をするのかと、ずっと考えていた。

ナツノスイカは、アイドルグループにいそうな感じの美少年で、自分の事を「僕」というようなお坊ちゃまである。しかし、そんなことを決して自慢したり厭味にしたりはしないため、友人は多い。金に困っているわけでもなさそうだし・・・。興味本位で売春なんぞしそうにないだけに、今回の噂は本当に寝耳に水だ。

うんうんとイルカが唸っていると、スイカが自宅から出てきた。大き目のスポーツバッグを肩から掛けて、何事か悩んでいる表情だ。その後を母親らしい女性がついてくる。イルカは気付かれないようにそっと車から降りる。

「スイカ。相手様の御宅にご迷惑掛けないようにね。」

「わかっているよ、お母さん。じゃあ行ってきます。」

会話をそっと盗み聞きしてみると、どうやらスイカは友人宅にでも泊まりに行くのだろう。

しかしながら、この会話・・・。友達ン家に泊まりに行く息子と母の会話にしちゃ、上品だよな・・・。

まるでドラマのような会話だと、イルカは引き攣り笑いをしてしまう。そうこうしている内に、スイカは目的に向かって歩き出した。イルカも不器用ながらに尾行する。

その後の行動は、確かに不審だった。友人宅には向かわずに、一人でブラブラと買い物をしたり、ファーストフードで夕飯を取ったり。深夜と言われる時刻になるまで、スイカは一人で時間を潰しているようだった。

23時を過ぎる頃。スイカはようやく本来の目的に向かって歩み出したようだった。そこはホモやゲイの溜まり場と呼ばれる場所だった。スイカはそわそわしながら誰かを待っているようだ。

「・・・スイカ・・・。お前まさか本当に・・・?」

あまりにも「それらしい」行動の我が生徒に、イルカは青ざめていった。何度かスイカは中年男性や、同じ歳ぐらいの男に声を掛けられていたが、全て断っている。その行動にイルカは「まだ大丈夫。」とわけの分からない励ましを自分に贈っていたが・・・。

スイカが嬉しそうな表情で手を振った。イルカはスイカが見ている方向を即座に確認する。現われたのは、自分と同じくらいの青年だった。いかにも高そうなシャツと、ジーンズというシンプルなカッコだが、なかなかの色男らしい。長めの前髪で表情は分からないが、長身だし身体つきもしっかりしてそうだ。まるでモデルのようだ・・・。

こんな男が、スイカを買うのか!?そうか、ショタコンなんだな!?この変態め!!

腕を組んで、いかがわしいホテルが立ち並んでいる方向へと歩みを進める二人をイルカは怒りを露に後をつけて行く。ガイほどではないけれど、イルカもなかなかに熱血漢なのだ。

オレの生徒に指一本でも触れてみろ!その場で殴ってやる!!

鼻息荒くしながらイルカが追った二人が行き着いたのは、高級ラブホテル。することは一緒なんだから、高級だろうが何だろうがどうでもいいだろうが!!とホモ御用達のホテルにイルカも入っていった。

「お客様・・・お一人ですか?」

「・・・。」

怪訝そうにする受付に呼び止められて、イルカは困ってしまった。不思議がるのも当たり前だろう。まさか一人でする為にラブホテルを使うわけも無い。

「・・・さっき入ってきた奴らと・・さ、三人でするんです。倍額払いますから、お願いします!!」

「・・・ごゆっくり・・・。」

ひくりと引き攣っている笑顔を横目に、イルカはスイカたちを追いかけた。無理矢理スペアのカードキーをフロントから奪ってきたイルカは、目的の部屋を見つけ出すと目にも留まらぬ速さではやの鍵を開ける。

まるで刑事ドラマの犯人を追い詰めた刑事のように、イルカは現場に踏み込んだ。

「し・失礼します!スイカ――!無事か――!!」

どんな時でも礼儀を忘れないイルカ。さてさて、そこには嫌がるスイカと、スイカの手に万札を握らせる変態ショタコン男がいると思いきやー・・・。

「先生!?」

「せんせい?」

「スイカー・・・。」

そこには意気揚々と万札を手渡しているスイカと、「スイカ」から金を受け取っている変態ショタコン男がいたのだった。

「スイカ・・・なんで?」

先生だって普通の人間だ。極限状態にもなれば、こんな間抜けな事しか言えないさ。

いや正にその通り。先生だって間違いの一つや二つある。つーか、間違えていて欲しかった。



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