人間の三大欲って何だっけ。 食欲・睡眠欲・性欲だったはず。 最近の皆様。 性欲ばっかりが目立ってません? ・・・もしかしてオレもそれに当てはまってるんだろうか。 あー、泣きたい。 |
今日は昼休みまで授業が無い。 イルカは浮かれた気分を隠せず、軽い鼻歌を歌いながらいそいそと廊下を歩いていた。目的地は視聴覚室。ビデオ教材や映画鑑賞のために使われるその教室は、あまり使われることは無い。だから授業準備や自分のクラスの雑務をする場合、その場所を使ってもいいという暗黙の了解が出来ていた。 あそこならば、鍵も掛かるし誰も来ないよな。 眠る気満々のイルカは、最上階にある一番隅の教室をほくほくとした気持ちで開けた。名目上のために持ってきた教材やテストの答案用紙を長机に置き、さっそくカーテンを引く。もちろん教室の鍵もしっかり閉め、彼はどかりと椅子に座り机に突っ伏した。 どうして教室で寝る時は、この体勢が一番なんだろう。 にやにやと笑いながら、学生時代を思い出す。自習時間などはよくこうやって寝たものだ。 いや・・・一応仕事もするよ?ホラ、テストとかも持ってきたし・・・でも・・・一時間・だ・・・け・・・。 言い訳をつらつら考えているうちに、思考が蕩けてきた。イルカはまどろみに逆らわず、不足した睡眠を補う。体力には自信があったイルカだが、やはり昨夜の出来事には心身ともに疲れ果てたというのが正直なところなのだ。 すぅすぅと小さな寝息を立てて、イルカは気持ちよく眠る。起きた時には体力も回復し、名目上持ってきたテストの答案も終え、アスマにもう大丈夫!と笑顔で言えるだろうと思っていた。 しかし世の中そんなに甘くは無いのだ。 イルカが眠ってから約三十分。 「・・・ん・・・?」 コンコンと、教室のドアから音がした。イルカは寝惚け眼で音がした方を見てみる。 コンコンコン。 「・・・!」 ノック!? 誰かが来たのだとようやく思考が追いつき、イルカはひっくり返らんばかりの勢いで飛び起きた。アスマならば構わないが、その他の教師ならば困る。答案をつけていたというフリをしなければと、焦る気持ちを抑えられないまま、イルカはドアの鍵に手を掛けた。 「今開けます!」 「あ、やっと見つけた〜。」 「・・・へ。」 返ってきた間の伸びた声を聞き、イルカは一瞬我を忘れる。ぎこちない動作で首を上げれば、すりガラスの向こう側に見覚えのあるシルエットが映っていた。 ・・・嘘ぉ。 「イルカ先生?開けてよ。」 「カ・カカカ!?」 どくどくどくと心臓が悲鳴を上げ始め、冷や汗が吹き出てきた。鍵を開けてしまったイルカはその姿勢のまま固まっていた。ちょっと立て付けが悪いそのドアは、イルカの意思とは関係無しにゆっくりと開いていく。ギィっと嫌な音と共に見えたのは、長身の男。 「オレの名前はカカカじゃないですよ。」 「カ・カカシさ・・・っ!」 「そ。カカシです。」 誰もが見惚れる笑顔全開で立っていたのは、今朝まで戦闘を繰り返していた魔王・はたけカカシだった。 「なっ何で――!?」 「何でって、会いたくなったから。」 「さらっと言うな!!」 引き攣りながら叫んだイルカとは正反対に、カカシはけろっと言い放つ。そのまま教室へ入ってこようとするカカシに気付き、イルカはようやく正気を取り戻した。 「入ってくんじゃない!!」 「何でですか〜。」 カカシ側に開くドアなので、イルカは開けさせないとノブに力を入れて引っ張り、カカシは何とか開けようとこちらも引っ張る。ギィギィと悲鳴をあげるドアには申し訳ないと思うが、こればかりは譲れないとイルカは両足で踏み止まった。 「何で部外者が勝手に校内へ入ってこれるんですか!!」 昨今の様々な凶悪事件のため、学校内への部外者の立ち入りには厳しくなっている。男子校とはいえ、セキリュティは強化された。イルカの目から見ても未だ充分妖しいカカシが、簡単に校内への立ち入りを許されるはずが無い。 「あ〜・・・タダにしてあげるって言ったから。」 「・・・はっ!?」 予想外の答えに、イルカはつい力を抜いてしまった。バタンと大きな音を立ててドアは開き、先ほど見た笑顔変わらぬカカシが大喜びで抱きついてくる。しかしイルカにはそれが小さい出来事に思えた。 「ちょ、ちょっと待ってください!!タダってどういうことです!?アンタ、うちの教師に会ったのか!?」 カカシの答えから考え付く事は、カカシは教師に会い、会話をし、許可を得て、この場にいるということ。しかも許可の見返りが「タダにしてあげる。」とはどういうことなのか。イルカはますます冷や汗が流れ出てきた。 もとろんカカシはそんなイルカを放っておき、昼寝を決め込んだ彼のように、いそいそとドアの鍵を閉めなおしている。イルカは背後からカカシの尻を蹴り上げた。 「このバカカシ!!ちゃんと答えてください!」 「も〜、乱暴だなぁ。だから、受付の奴が前の客だったんですよ。だから今度の指名のとき一回分はタダにしてあげるって言ったら、すんなり通してくれて――・・・どうしたの?」 尻を摩るカカシの横でイルカはがっくりとその場にへたり込んだ。昔の虐められたヒロインの様に、よよよとへたり込み、床の冷たさを味わう。その床より心が冷たくなるのは当然の事だった。 「・・・カカシさん・・・うちの職員に買われたことあるんですか・・・?」 「ありますよー。廊下でも何人かに会って、直接指名されたし。でもさ、うちのオーナー通してからじゃないと受けれないって、断っておきました。」 何ていうのコレ。 不純異性交遊とは違うな。たまにニュースで報道される、教師による未成年への性的悪戯?いやいや、カカシさんは立派な成人男性だ。じゃあ何・・・とりあえず教師の性の乱れってやつでいいの?あれ?オレもそれに入っちゃうの? イルカは涙を瞳に溜めて、うるうるしながら乱れた世の中について考えた。その中に自分も入っているのだろうと気付き、耐えかねてぼろぼろと涙を零す。わんわん泣いてしまいたかった。まさかうちの教師に主張ホストを頼んでいる者がいたなんてとイルカは泣き叫んでしまいたかった。 「しかも何だ!?今度タダにしてやるから不法侵入を許可したっていうのか!?」 「もう不法侵入じゃないでーすよ。」 「もうあんたは黙ってろ!・・・誰に買われたことあるんですか・・・。」 「黙れって言ったり喋れって言ったり、イルカ先生は本当に面白い人だーね。」 カラカラ笑われたが、もうイルカには怒る気力も無かった。カカシは少し考えたあと、指折りをして人数を確認した。 「名前なんて覚えてません。えーっと・・・さっき会ったのは女三人と、男二人。あー、そうそう。顔覚えてる女、一人いたよ。オレの小便飲みたいってうるさかったから、覚えてる。」 名前聞かなくてよかった・・・。 イルカは再びがっくりと床で項垂れた。うちの教師に少なくても五人はカカシを買った事があり、そのうち一人がスカトロ大歓迎の女教師。すごい学校だなぁ。イルカの目はだんだん遠くを見始めた。 「その時ね、別にしたくなかったから、小便なんて出ないって言ったらさー。じゃあ精液でいいって・・・。」 「言わんでいい――!!」 がばっとイルカは起き上がり、意気揚々と喋り続けるカカシの口を両手で押さえ込んだ。ふがふが言っているカカシ。イルカは明日から同僚を見る目が変わりそうだと再び涙する。 「何でそんなに人気者なんですか・・・。」 そして世間は狭すぎる。 「――っつ!」 ぺろりと押さえた指を嘗められ、イルカは衝撃に手を離した。舌を出したままのカカシと目が合い、ギッと睨む。カカシはくすりと楽しそうに笑う。 「センセ。仕事が終わったら、会ってくれますか?」 「・・・え?」 カカシは少し頼りなさ気な顔をしていた。自信がないその表情は、こちらの機嫌を伺う色をしている。イルカは途端に複雑な気持ちになってしまった。 現在のカカシとの関係をイルカは望んでいない。 カカシはイルカの事を好きだという。恋愛感情の好きだというのだ。しかしイルカはそんなカカシに応えることが出来ないでいる。嫌いなのかと問われると、そんなことはないとハッキリ言える。あんなことをされたのに、そう言えるのだ。不思議だと思う。けれどそれが恋愛感情からそう思えるのかと聞かれると、それも違うとハッキリ言える。じゃあ、これからもその気持ちは目覚めないのかと言われると・・・困ってしまうのだ。 中途半端な気持ちはグラグラと揺れる。 「ね。ご飯でも食べに行こうよ。奢りますし!」 カカシはこれを言いにここまで来たのだろう。携帯番号を知っているのだから、それで済ませられるはずなのに。会って言いたかったからここまで来たのだと言う。 「・・・。」 許可の取り方は気に入らないが、こういう主人を待つ犬のような態度は好ましいと思う。 可愛いとさえ思ってしまう。 「・・・中華・・・。めちゃくちゃ高いの奢らせますよ?」 「・・・はい!いい店調べておきます!今日は何時ごろ終わります?」 「今日はそんな遅くはならないと思います。あ。言っておきますが、変な事はしないでくださいね!?」 カカシとの関係はよく分からないが、こんな風に食事をしたり馬鹿なことを言い合える関係を築けられたらいいと、イルカは思った。 「え!!」 そう。 イルカはそう思っている。 「変な事って、まさかセックスのことじゃないよね!?」 イルカだけがそう思っているのに、気付いて欲しい。 「ああああ当たり前に決まってるだろうが!!」 「何それ!!したいに決まってるでしょ!」 セックスという単語一つで狼狽えるイルカは、真っ赤になりながらどもった。カカシは納得がいかないと、駄犬よろしく吠えまくった。 「あー!うるせぇ!!そんなこと言うんだったら、飯の話は無しです!!」 「――!あぁそう!そういうこと言うんだ。」 カカシの低い声と共に、イルカは机に押し倒された。ぎょっとしてからじゃ遅いということは、短いカカシとの関係で知っている。イルカは瞬時にしまったと言った言葉を後悔した。 もちろんもう遅い。 「仕事後できないんだったら、今からしてやる。」 だから早く気付けばよかったのに。 薄暗い教室で、イルカは何度目かの涙を流した。
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