だって自分の気持ちすら持て余してる。 でも分かりたい。 ちゃんときちんと、アナタの事を。 |
うみのイルカの恋はひどく淡い。 誰かを好きになっても、行動に移すことがない。 朝目覚めると、対象者に今日は会えるだろうかと期待し、遇然を待ちわびた。その遇然を想像しては忍び笑いなんかして。 気持ち悪いと言われるかもしれないけれど、見ているだけで幸せだった。 いつの頃からかは忘れてしまったが、人と接する事に臆病になってしまっていた。人と深い関わりがもてない。子供たちに対してなら積極的にいけるのだが、いざ恋愛ごとになると消極的になってしまう。たぶん、好意を持った人に嫌われるのが恐いからだ。このままじゃ、ずっと一人きりだと分かっているのに、行動できない。 イルカはいつもどこかで自分に引け目を持っている。そんなイルカを理解してくれる人はなかなか現れてくれない。イルカは自分を変えようと努力はするのだが、なかなか成果は表れなかった。 そんなとき、思ってもいなかった人物から、イルカは告白された。 はたけカカシ。 自分と近いところにいそうで、もっとも遠い部分にいると思っていた男から、イルカは突然告白されてしまった。 金色の子供を通して知り合った、元暗部のエリート忍者であるはたけカカシ。イルカは彼と知り合い、話をし、近付くたびに彼に憧れを抱き始め、最終的には見ているだけで幸せという、いつも通りの行動に移さない恋心にまで発展してしまった。 「イルカ先生、オレあなたのこと好きなんですけど。」 彼は目を塞ぎがちにそう言った。カカシが七班の任務に向かう途中の出来事だった。アカデミーへと向かうイルカと遇然いっしょになったから、じゃあそこまで一緒に行きましょうと言われ、世間話をしながら歩いている途中に、急に言われたのだ。 「・・・は?」 突然そんなことを言われ、イルカはきょとんとカカシを見詰めた。カカシは少し困ったように眉を下げ、もう一度同じ台詞を言った。 「お付き合いしてくれませんか。」 オツキアイ・・・? 心の中で言われた言葉を繰り返し、イルカはようやくその意味を理解した。したとたん、それは見事に首まで真っ赤に染め上げた。カカシが驚くくらいに。 「え、あの。つ・付き合うって・・・その・・・。」 「恋人になって欲しいです。」 カカシは真剣な目でイルカを見詰めている。イルカは戸惑った。本気で言っているのだろうか。しがない中忍、しかも男の自分に言うなんて、何かの間違いではなかろうか。ぐるぐる回る思考に俯いてしまったイルカは、じっとりと手に汗を握りながら足元を見ていた。 「オレ、は男です・・・。」 「知っていますよ。」 唇が震えて上手く言葉が言えない。イルカはこくんと何度も喉を鳴らした。カカシの顔が見れない。 「っつ・・・あ・の・・・。」 「オレが・・・嫌いですか?」 その言葉にイルカはばっと顔を上げた。見上げたカカシは少し不安気味に自分を見詰めていた。イルカの心臓が跳ね上がる。 「いいえ・・・。いいえ!」 嬉しさと不安がない交ぜになった感情を隠せもせず、イルカは涙目になりながら返事をした。 嫌いなわけないじゃないか。 こんなにも好きなのに。 「カ・カシ先生。嬉しいです・・・。こ、こちらこそお付き合いしてください。」 「オレも嬉しいです。――泣かないで。」 ぼろぼろと勝手に落ちていく涙。イルカは止める事が出来なくて、力任せに手で目を拭った。カカシはイルカの手を止めて、そっと舌で涙を吸い取ってやる。驚いたイルカはまん丸に目を見開いて硬直してしまい、そんなイルカを見てカカシは嬉しそうに微笑んだ。 そんな穏やかな恋が実ったのが二ヶ月前。 ――現在。 傍から見たらそんなに変わらないかもしれないが、イルカは確実に痩せた。ダイエットしたわけでも、身体を鍛えて絞ったわけでもない。精神的なものからくる食欲不振が原因だ。 カカシと付き合い始めてから二ヶ月。休むことなく嫌がらせが続いている。 主にカカシに想いを寄せている女性からの嫌がらせだったが、最近は男からもされ始めていた。どうやらカカシは男にもモテルらしい。カカシとの関係を自ら喋った事はないが、どこかしらばれてしまうものらしい。こそこそと噂話されたり脚を引っ掛けて転ばされたりなど、小さくて姑息な嫌がらせが多かったが「なんでアンタみたいな中忍と。」と面と向かってハッキリ言われた事もある。 そんなこと、オレが知りたい。 イルカは深く溜息を付きながら思った。皆の視線を感じながら帰り支度をし、帰路につく。とぼとぼと重い足取りで夕焼けの中を歩いていった。肩掛けのカバンにはたっぷりとやりかけの仕事が入っている。職員室で片付けたかったのだが、二ヶ月たってもまだ薄れない好奇の視線に集中できないため、家に持ち帰っているのだ。 「イールカ先生。」 「うわ!」 ぼんっと忍独特の音を立てて、カカシが突然目の前に現れた。カカシはよくこのように現れてはイルカを驚かす。イルカの驚いた顔を見ては、へにゃりとしまりの無い笑顔を浮かべるのだ。そんな子供みたいな表情をするカカシは一週間ほどの任務を終えて帰ってきた。 「ただいま戻りました。」 「お、おかえりなさい、カカシ先生。」 驚きと嬉しさをない交ぜにし、声が上擦ってしまった。恥ずかしい。未だにカカシの笑顔に戸惑ってしまう。照れてしまう。 任務終了後、イルカの元へ直行したのだろう。所々服が汚れていて、ほつれている。イルカはぎょっとした。カカシの手から血が滴っているのだ。そういえばいつもの手甲をしていない。ぐるぐると包帯が巻かれている。 「手を怪我したんですか!?」 ちゃんと治療していないのだろう。白い包帯は見事なまでに真っ赤に染まっている。イルカはぱっとカカシの手を取り、心臓より高い位置へと持ち上げた。 「大したこと無いんです。今は、ちょっと傷口が開いたみたいで。」 「アカデミーへ戻りましょう!保健室に・・・!」 「だーいじょうぶですって。それよりイルカ先生ん家行きたい。腹も減ったし、ね?」 「ダメです!ここからならアカデミーの方が近い!治療が先です!!」 イルカはカカシの言葉を容赦なく却下し、ずんずんと歩いていく。もちろんカカシの手を取って。カカシはそんなイルカを見て、またへにゃりと笑った。きっと誰も見たことのないカオ。
「カカシ先生、ちょっと待っていてください。職員室を見てきます。」 「んー、平気ですよ。オレが勝手にしちゃうんで。」 「よくありませんって。専門の先生に診てもらいましょう?職員室にいなかったら、すぐに戻ってきますから。」 血で汚れるのも構わずに、イルカの手はカカシの手を握ったまま。心配そうに眉を八の字にしては戸惑った目で自分を見る。カカシはくすりと小さく笑ってから、「分かりました。」と返事をした。 「じゃあ保健の先生がいなかったら、イルカ先生が治療してね?」 「う、苦手ですが頑張ります・・・。」 早く帰ってきてね〜。なんて子供みたいな声を背で聞いて、イルカは職員室へと急いだ。幸い子供たちはもういないから、少しぐらい急ぎ足で歩いたって問題はないだろう。 職員室は二階。保健室は一階。二階へと続く階段を上って行くと、踊り場に人がいた。上るのでも下るのでもなく、ただ踊り場に佇んでいる。 「・・・?」 じっとこちらを見てくる、くの一。くるくると巻き毛になっている髪は明るい栗毛色で、夕日を受けてキラキラ光っていた。薄い唇に意志の強そうな瞳。美人だ。そんな女性に見詰められれば、いくらイルカだって頬を染める。照れ隠しに小さく会釈し、横を通り過ぎようとした。 「ねぇ、カカシと何回寝た?」 「――・・・は?」 嘲笑を含んだ声がハッキリとイルカに届く。言われた内容に驚いて、イルカはくの一を振り返った。夕日が差し込む階段の踊り場に、長い影が二人分出来る。 「あの人上手でしょう?あ、ねぇ。もちろんカカシが犯す側よね?」 「な!何言って・・・!そんなことしてません・・・!!」 くすくすと笑いながら聞かれたこともショックで、イルカは真っ赤になりながら大声で返事した。イルカの返答に女は驚いた顔をした後、ニッコリ満面の笑顔を見せる。 「やだぁ。あなた、まだカカシとしてないの?ふぅん、やっぱり男相手じゃねぇ。」 ぎくり。 イルカの身体が硬直する。 その反応を見て女はますます笑みを深くする。イルカより背が小さいはずなのに、彼女に見下ろされているような気がする。優位に立っている彼女にイルカは何も言えないでいた。言い返したいが、言い返せない。何故なら彼女の言葉はイルカがいつも考えていることだったからだ。 カカシとイルカはまだ肉体関係まで至っていない。 口付けは何度かしたが、その先には進んでいない。初めて口付けたとき、息継ぎが出来なくて困ったイルカにカカシは驚いていた。隠すことも出来なくて、キスすら初めてだということを告げると、カカシは優しく「じゃあオレが教えてあげますね。」なんて言ってくれたのだ。最初はカカシに隠さず話してよかったなんて思っていたが、今は後悔している。 キスは上達するどころか、ますますぎこちないものになっていっている。 イルカはカカシの顔が近付くだけで気絶しそうなくらい、心臓がばくばく忙しなく動いてしまう。鼓動は日を増すごとに大きくなり、彼への想いと比例していくのだ。そんな状態で上手く唇を重ねる事なんて出来ない。もちろんその先なんて進めるわけも無い。こんなことなら正直に話さないで無理矢理にでも事を進めればよかった。訳も分からないうちに、勢いでカカシと結ばれればよかったとイルカは後悔した。 男の身体の自分とでは楽しくないと分かる前に、少しでも彼を手に入れたかったのだ。 ――いつまでたってもキスすらまともに出来ない自分に、もしかしたらもう、カカシさんは呆れているかもしれない。 「ちょっと、アンタ聞いてるの?」 「あ、す・すみません。」 ぼんやりと考えに耽っていたイルカを女が現実へと引き摺り上げた。思わず謝ってしまったイルカに女はフンと鼻で笑い、また得意気に話し出す。興奮のためか声が先ほどより高くなっている。 「彼は私と出会ったその日に抱いてくれたわ。彼は私の身体が気持ち良いと言ってくれたし、私が望めば何度だって愛していると囁いてくれた。」 どくどくとイルカの心臓が騒ぎ出す。ここまで露骨にカカシとの関係を告げられた事が無かったし、イルカには言い返すだけの自信も無い。だけど。 だけれど。 どんなに嫌がらせをされても、相応しくないと言われても、キスすら上手くできなくても――。 オレは、カカシ先生を諦められないんだ。 「カカシ先生は・・・オレのこと、す・好きだって言ってくれました。」 耳朶まで真っ赤に染めて、イルカは言い返した。女はきょとんと呆けた後、腹を抱えて笑い出した。可笑しくてたまらないという声だ。イルカは悔しくてきゅっと唇を噛んだ。 「そんな言葉、相手をその気にさせるための手でしょう?本気にしてる訳?」 「そんなの・・・!あなたにだって言えることでしょう!?」 「――なんですって・・・?」 イルカの言葉にビリリと空気が張り詰めた。女の表情がすっと消え去り冷たいものへと変化していく。やはりというか、薄々気付いていたが、くの一は上忍のようだ。ぶわっと溢れた殺気がイルカを圧迫する。それでもイルカは言い返した。カカシから貰った言葉を信じたかったからだ。 「以前はあなたの事を愛していたかもしれませんが・・・今はオレの事を好きだと言ってくれました。」 「毛色の違ったアンタと遊びたかったからよ。」 「・・・っつ!オレは、カカシさんを信じています。」 女の言葉に怯んで傷付きはするが、決して屈さないイルカに彼女はイラつき始めた。イライラと何度も髪をかきあげ、語尾が荒くなっていく。 「さっさと別れなさいよ!アンタじゃカカシに相応しくないわ!!直ぐに捨てられるに決まってるんだから!! イルカはきゅっと胸が痛むのを感じる。女が言った事は、本人が一番考えたことで悩んだことなのだ。ナルトというきっかけがなかったら、出会うこともなかっただろうエリート上忍のカカシ。しがない中忍の自分にいつ飽きるかなんて分からない。 「――努力します!捨てられないように・・・飽きられないように!!」 だって好きなんだ。 カカシさんがとても大事なんだ。 きゅっとしていた胸の痛みは、ぎゅうぎゅうとした大きなものへと変化していった。目頭が熱くなっていく。恥ずかしいけれど、泣いてしまいそうだ。自分の気持ちの十分の一も伝えきれていない。こんな時でも経験の浅さが邪魔をする。自分は子供のように泣くしか出来ないのか。 こんなことでは誰も分かってはくれないのに。 「オレも努力します。イルカ先生に捨てられないように、ね。」 思ってもいなかった人物の声が湧いて出て、気が付いたら抱き寄せられていた。背中から抱きこまれ、腹の辺りで腕を交差される。耳元にいつもの口布の感触と魅惑的な低い声が触れる。イルカは無意識に小さく喘いでいた。 「っ・ぁ・・・!カカシせんせ・・・?」 「うん。遅いから、心配して来ちゃいました。」 こうして触れられるまで、気配は一切感じなかった。流石と言うしかない。目の前にいる上忍であろうくの一も、驚いて目を見開いている。ドキドキと焦りで高鳴る心臓を何とかコントロールしながら振り向いてみると、カカシの笑顔にぶつかった。右目しか見えないはずなのに、満面の笑みだということが分かる。その笑顔を見た瞬間、イルカの不安は消し飛んだ。しかし、今度は不安の変わりに急激な焦りが襲ってきた。 「すみません!カカシ先生のことほっぽり出してた!」 「い〜え、大丈夫です。適当に応急処置しときましたし・・・それより。――ねぇ・・・?」 謝るイルカに笑顔で返したカカシは、柔らかに細められていた眼を冷たいモノに変え、するりと女に視線を合わせた。 自分の怪我の具合。――どうでもいい。 結構な時間を待たされた。――どうでもいい。 イルカを泣かせた。――容赦しない。 あぁ、オレって結構単純思考。 カカシはこっそり微笑し、イルカの肩口にゆっくりと顔を乗せてからおもむろに口を開いた。 「アンタ、誰よ。」 「なっ・・・!」 言われた言葉にくの一は、大きな瞳をさらに大きく見開いた。カカシはそれ以上何も告げず、ただじっと冷たい眼で女を見続ける。戸惑っているイルカを安心させるように抱いたまま。 「何言ってるのよ・・・カカシ!私はアンタと別れたなんて思ってないのよ!?」 「オレは今までコイビトなんか作ったこと無いんだけど。」 「――!!私のこと愛してるって言ったでしょ!?」 「あー・・・犯りたかったからじゃないの?」 屈辱的な物言いに、女はブルブルと傍目から分かるほど震え、唇を噛んでいる。未だ立ち去らない女にカカシはワザとらしく溜息を吐き、イルカをさらに抱き寄せた。 「失せろ。死にたいか。」 「ヒッ・・・!!」 「失せろ。」 先ほど女が発した殺気など、比べ物にならないほどの鋭いソレがカカシの身体から一気に吹き出る。イルカもその殺気に当てられ、冷や汗が背中を伝う。くの一は真青になり、一気に階段を駆け上りその場から立ち去った。忍らしからぬ足音が小さくなり消えるまで、イルカは緊張で息を止めていた。 「・・・イルカ先生。わっ!」 カカシが抱き締めていた腕の力を抜くと、イルカはその場にずるずると座り込んでしまった。強すぎた殺気にあてられたのだろう。カカシが支えてやっと立ち上がれるくらいだ。 「すみません。ちょっと力が入らなくて・・・。」 「うん。ごめんね、オレも加減出来なかった。」 そう言ってカカシはイルカを正面から抱き締めた。カカシの殺気も恐ろしかったが、くの一から解放された安堵も大きい。イルカは先ほどとは違う感情から泣き出しそうになった。 「・・・っつ・・・。」 「遅く来すぎた。イルカ先生にこんな思いさせたくなかったのに。」 イルカはぶんぶんと頭を振ってカカシの言葉を否定する。それはこちらの台詞なのだ。こんな場面をカカシに見られたくなかった。言いたい事も言えないで、泣きそうになっている自分を見せたくなかった。 「オレ、頑張りますから・・・!」 イルカはまだ胸を張って言えない。嫌がらせに向かって、こんなことされる理由は無いと自信を持って言えない。かつてカカシと関係があった人や現在好意を持っている人に、恋人は自分なんだと言い返すことも躊躇っているけれど。 でも頑張るから。 胸を張って言えるように。 「男だし、万年中忍だし、キスすら満足にできませんけど・・・。あなたと対等な位置に並べるように、頑張りますから・・・。」 もう少し待ってください。 最後の言葉はとても弱く小さくなり、抱き締めているカカシにすら聞えにくいものだった。カカシは驚いた表情でイルカの想いを聞く。そうして悟る。今日目撃したイルカへの攻撃は、何も今回だけではないと。日常的なものなのだと。 「――本当にゴメン。今までのオレが、こんなにもイルカ先生に迷惑かけてたなんて、思ってなかった。」 イルカの痩せた理由が自分だと分かり、カカシは知らず奥歯を噛み締めた。イルカは再びぶんぶんと頭を振り、涙目のままカカシを見上げる。 「カカシ先生のせいだなんて、思ったことありません。オレと出会っていない、過去のカカシ先生も大切な貴方です。――否定しないで。」 向けられた瞳は黒曜石のように煌いていて、彼の意志の強さを物語る。未だ潤んでいるけれど、決して放れない視線に負けて、カカシは小さく「はい。」と呟いた。 「ねぇ、イルカ先生。分かって。オレと対等になるとか、オレにふさわしくなるとか・・・そんなこと考えなくていいですから。」 「え?」 カカシは口布と額宛を取り、イルカの前に素顔を曝け出す。ちゃんと伝えたいから。イルカには分かって欲しいから。 「オレね。貴方が思っている以上にイルカ先生のこと、好きです。」 「・・・ぁ。」 とても照れくさい事を言っているはずなのに、カカシの表情は穏やかで照れなんぞ一片も見えてこない。言われたイルカの方が照れてしまいそうだ。 「周りのこととかどうでも良くて、ただイルカ先生のことだけ欲しがってます。」 「だって、あなたといると心地良いんです。」 甘く蕩ける低音の声が、自分だけに降り注ぐ。その快感に、イルカはただぼんやりとカカシに身を任せるしか出来ない。カカシは潤むイルカの瞳にそっと唇を寄せる。初めて想いを確認したあの日のように。 「ねぇ、先生。イルカ先生。」 「わかってよ。」 唇が触れ合いそうなその距離で囁かれる。イルカは堪らずカカシの背に縋った。そしてそれより強い力で抱き返される。 「好きです。」 「オレはあなたが好きなんです。」 イルカはもう何も言えなくて、ただ力の限りカカシを抱き締めた。
自分が恋愛ごとに不慣れだと言う事をカカシが理解していてくれて、待っていてくれると信じられるようになった。この事が心の余裕につながり、嫌がらせへの相手にも対処できるようになった。余裕が出来ると、こうまで世界が変わって見えるのかとイルカは驚いていた。 「イルカ先生。もう、ちゃんと分かってるよね?」 カカシはその答えが分かっていると言うように、笑いながら聞いてくる。 帰宅途中、夕飯の買出しにと商店街に二人で寄り道。そんな道の往来で聞かなくてもいいだろうとイルカは思ったが、ニコニコ嬉しそうに答えを待っているカカシを見ていると、答えずにはいられない。 「はい。ちゃんと、しっかり分かってます。」 イルカは迷いない、ハッキリとした声で答える。カカシは「はい。」と返事して、二人の距離をもう少し近づけた。 「あ〜、イルカ先生。」 「はい?」 「今度はオレの男心ってヤツを分かってくださいね?」 「・・・?オレも男ですから、分かると思いますよ?」 「――・・・今夜はもうちょっと進みたいなぁって・・・。」 「・・・?どこへですか?」 「・・・いえ。」 ここら辺はまだ分かってくれないみたい。
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